講演会「認知症利用者と家族のアセスメント視点と証明」
| 主催:株式会社日本コンピュータコンサルタント 日時:2011年9月27日(火)14:00~16:20 場所:秋葉原コンベンションホール |
だからヘルパーの仕事は面白い
私自身も、昭和62年から平成11年3月まで12年間ヘルパーをしてきた。その状況の中で、私はホームヘルパーの仕事というのは、他の仕事には変えられないほど面白い仕事だと思ってきた。なぜかというと、利用者さんの話をしっかり聴きながら時間をかけて関係ができてくる。そして、1つでも2つでも利用者さんの成果が見えてくると、それが非常に嬉しいのである。
少なくとも4、5年歯を食いしばれるヘルパーさんたちは、きっと同じように成果がみえてきて仕事が楽しいと思えるのではないか。
自分の職場で長く勤めている方に聞くと、「利用者さんの24時間の暮らしが想像できて、どうしなければならないか、職員同士で話し合って、臨機応変にケアのあり方を変えていくことができるので、この仕事は面白いんだ。」と言う。
私はその言葉がとても大事だと思い、それを自分の柱にしながらここに立っている。
今の介護現場では、忙しさで職員同士で話し合う時間がなかなか持てない。そこを会社の中でどうクリアしていくかということが非常に大事なことである。
認知症をもつ人は、表と裏に存在する特性を持つ
認知症を持つ一人ひとりは、実は表と裏に存在する特性を持っている。先ほどの問題行動の事例で述べたように、現状見える行動とその行動にある背景とには大きな意味がある。現状みえるのは、混乱しているだけではなく、混乱しているその背景には何があるのかを考えなければならない。
私が以前教えた社会人の大学院生が、メールで次のような内容を送ってくれた。
****************************************私の夫は若年性の認知症で、つい先日まで働いていた。 しかし、会社への道が分からなくなったり、会社で同じことを繰り返し聞いたり、本人の中でも非常に不安感が強くなってきて、「俺はどうしたんだ」と頭がおかしくなってきている、とよく私に話していた。
それで、会社を辞め、家で見ることにしたが、奥さんが大変だということはケアマネジャーさんにも見て取れた。「一度、施設入所をされたらどうですか。」とケアマネジャーさんに言われ、特別養護老人ホームへ入所することにした。
すると、施設から「夜中になるとウロウロして歩いて、ズボンとパンツを下げて露出している。困ってしまいます。」「皆さんが集まるロビーでテレビの音を大きくしていると、テレビの周りをうろうろ回って、ワァーとパニックになって、他の人に手を挙げそうになってしまう。」「これではウチでお預かりすることができません。」ということになって、再び家に引き取ることになった。
ケアマネジャーさんや施設の人からも、「このままでは施設もダメですし、きっと家でも奥さんがみていくのは難しいでしょう。となると、病院しかないでしょう。」ということで、泣く泣く一度家に引き取ってから、病院を探して精神病院に入院したという。
夫は、拘束されたり、薬を飲まされたり、先日まで歩いていた人が歩けなくなってうつろな目になって天井ばかりみている。そういう状況をみて奥さんは「このままだと死んでしまう。家に帰るのはこの人が死んでからしか帰れないだろう。」と思い、家に引き取った。何日か関わっていくと、歩けなかった人が歩けるようになり、表情も穏やかになった。
****************************************
もし、その認知症の方の特徴がわかっていれば、「あっ、この時間だからトイレに行きたいんだな。トイレに行きたいけど、今まで住んでいた環境と大きく違うから、だからトイレを探しても分からなくて、もう漏れそうになってズボンを下げているんだな。」と理解できていれば、「だからこういう行動を取っているのだろう」と考えられたはずである。それを叱責するのではなく、「すみません。私たちが気づかないで。」という言葉ひとつでその方がどれだけ安心するか。
テレビの音のことも、自分ではテレビが何を言っているのか分からなくて、音だけがガンガン響いてきて、非常に嫌な気分だけがどんどん大きくなってきていたんだと思われる。だから、わぁーと大きな声も出したくなるし、自分でどういう言葉を発していいか分からなくて、そういう行動になるのだと考えられる。
その時に「すみませんでした。気がつかないで。こちらの静かなところで・・・」というように、職員が一言声をかけてあげたら、おそらくそのような行動を取らずに済んだかもしれない。
このように、裏と表がある。だから、アセスメントするためにも、どれだけその人の根底にある状況、病気などを理解することができるかが大事なのである。
常に不安感が本人を巻き込む
2004年10月にアルツハイマー協会の国際会議があり、日本で初めて、認知症を持たれている方が本人自身の言葉で語った。
<越智さんの言葉より>
「物忘れの病気は、『気にするな』と言われても、朝・昼・晩、寝ていても目が覚めていると、『何で?』の気持ちと、自分が自分でなくなる不安と怖さで、心から笑うことができませんでした。」
認知症を持たれている方は、常に不安感が本人を巻き込んでおり、空虚感と不安感を抱えて生きている。
また、アルツハイマーの認知症をもつクリスティーン・ブライデンさんは、次にように語っている。
<ブライデンさんの言葉より>
「病気が進むにつれて、自分がどう感じているかを表現するのが難しくなってきます。自分の考えを整理し、それを言葉に表して、相手にわかってもらうことが困難になります。」
また、彼女の著書には次のような内容が書かれてあった。
<ブライデンさんの著書より>
~人の話を聞くときに、正常の人以上に頭が回転している。
聞こうとして、理解しようとして。そして、聞いていると疲れ果ててしまう。
だから、会話をしているときに無表情になったり、聞いているのか聞いていないのか分からない状態になったりして、相手からしてみれば、「なんて失礼な」という表情になってしまう。~
そういう認知症をもつ方の気持ちや状況を理解することが大事である。
治せる認知症を医療につなげる
iNPH(特発性正常圧水頭症)は、治せる認知症だと言われている。まだ、認知度の低い病気だが、認知症をもつ方の約30万人はこの病気が原因だとも言われている。
この病気の特徴をつかみ、その方々を介護から医療へつなげていくことが必要である。この病気は30分程度の手術による治療が可能で、元のように歩けるようになる確立が非常に高いといわれている。
IADLに注目し、「できること」を引き出していく
認知症介護研究・研修東京センターでは「いつどこネット」というアセスメント表が出されており、無料でダウンロードできる。
通常、アセスメントをするときには、「家族図」「その人の病気」、「かかっている病院名や薬」を明確に書く。また、ADLやIADLの部分もアセスメント表に書いてく。
双方それぞれが重要であるが、特に、生活していろいろなことが出来なくなってくる場合には、ADLよりもさらにみてほしいのは、「IADL」の方である。
日常生活で、整容や衣服を着る細かさなど、何ができて、できないことは言葉をかければどこまでやることができるか、ということのアセスメントをすることがとても大事である。
皆さんにお願いしたいことは、観るときに「これができない」「あれもできない」というのではなく、「これができる」「あれもできる」とプラス発想で観ていただきたい。
先ほどの事例のように、ズボンを全部下げてしまって本人を叱責してしまえば、その人自身の心が、「自分はダメだ、ダメだ。」と悪循環に繋がっていってしまう。
だが「何ができるか」という視点に立ってみたらどうか。
声を掛ければ洋服の袖に腕を入れることができる。もう一度声をかければ、反対の方に手を入れることが出来る。「ボタンをかけましょう」というと、上は掛けられないけど、下は掛けることができる。「じゃ、なかなか難しいという上のところをお手伝いしましょうか。」と言って洋服を着ることができる。
歯を磨くときも、歯磨き粉のキャップを外すことの意識が持てない。だから、「こうやって力を入れてフタを外してください。」と言えば、出来る方はたくさんいる。
また、歯ブラシは持てるがどうするのかを忘れてしまっている方もいるので、「口を開けて、この歯磨き粉をつけて、こうやって磨きましょう」と言ってモデルを示せばできる方はたくさんいる。
そのように、1つひとつのIADLの部分をどうやって「できる」「できない」「言葉をかければできる」というように細かく観ていっていただきたい。
(SIL編集委員)


